香りを嗅ぐことによって脳波にどのような反応が起こるのかを測定した研究について。
1980年代に、神経系に鎮静効果をもつ精油と刺激効果をもつ精油とも脳はで区別する目的の研究が鳥居静夫氏らにより行われました。
より客観的な測定値が必要であると考え被験者の自己申告による体感ではなく、脳の電気活動の測定をすることになったそうです。(CNV測定*)
*contingent negative variation:随伴性陰性変動:CNV→期待、やる気、集中という心の働きに伴って発生する脳の電気活動(電位変動)の測定方法)
最初の予備実験
- ラベンダー→CNV抑制(鎮静作用を示す)
- ジャスミン→CNV増強(興奮作用を示す)
さらに17種類の精油について調査
鎮静作用を示した精油
- サンダルウッド
- ベルガモット
- レモン
- マジョラム
- カモミール
- ラベンダー
興奮作用を示した精油
- ローズ
- パチュリー
- イランイラン
- クローブ
- バジル
- ペパーミント
- ジャスミン
鎮静作用と興奮作用の両方の効果を示した精油
- ゼラニウム
- ローズウッド
- ネロリ
- ローズマリー
- レモングラス
17種類の実験を終えて、予備実験では気づかなかった個人差の問題が浮かび上がる。
ネロリの香りにどう脳波が反応するか
ネロリについて4名の被験者で測定した内、2名が鎮静。
これらの被験者に自己申告をしてもらったところ、
- 鎮静効果を示した被験者は2名とも、その香りを柑橘系の香りだと香りの情報をキャッチしていたが
- 興奮効果を示した残りの被験者2名は、いずれも花の香りだとキャッチしていた
ネロリの精油はビターオレンジの花から採油されるが、精油に含まれる芳香成分には、
フローラル調のリナロールや、シトラス調の酢酸リナリルなど様々な芳香成分が含まれている。
そのため、
- フローラル調の香りに敏感な被験者は興奮作用を示し
- シトラス調の香りに敏感な被験者は鎮静作用を示した
ということである。
香りのタイプと気分の変化の関係まとめ
興奮作用を示す香調1)
- フローラル調
- スパイシー調
- ミント調
鎮静作用を示す香調
- シトラス調
- ハーバル調
- ウッディ調
伝承やヨーロッパの実験結果に反する内容について
ネロリとローズは通常、鎮静系の精油とみなされているが、CNVからは刺激性の効果を持つことが示された
レモンとサンダルウッドは刺激性の精油と考えられていたが、CNVでは鎮静効果を持つことが示された
セージはCNVには少ししか影響を与えなかったが、わずかに刺激性があった
これらは文化の違いによって起こるものであるかもしれない。
ローズやネロリのような精油が刺激作用を持つのか鎮静作用を持つのかについての評価の食い違いは、上述された認知効果が重要な鍵を握っているのではないかとの見解だが、まだ他にも多くの因子があると思われる。
例えば、精油の濃度によって結果が変わる可能性があることは以前から指摘があった
さらに個人の体調も影響するようだ。
ネロリの鎮静か興奮かの反応は、昼間か夕方かで異なる傾向もある。
アロマテラピーではこのような両方の効果を示す精油は調整剤(adaptogen)と呼ばれる。
その効果は、バランスを取ること。
故に、同じ精油であっても落ち着きがなく興奮した状態に対しては鎮静的に作用するけれど、気分の落ち込んだうつ状態の時には興奮的に作用する。
香りの効果の被験者への直接的、間接的効果
直接的効果…薬理学的メカニズムによる、非認知的効果。これは個人差は小さい。
間接的効果…芳香成分によって運ばれる情報に関係した認知活動から起こる脳の反応。認知的心理学的メカニズムによる。こちらは個人差が大きい。2)
参考文献、資料
アロマテラピーの科学 朝倉書店
1)Torii S : Odour mechanisms. IJA 8 : 34-39, 1997
2)Jelinek JS : Odours and mental states. IJA 9 : 115-120, 1998/1999